「AIに反映させます」業者にご注意
— 詐欺は綺麗にスライドしてるだけ


ブログのほうに書いた話 の続編というか、考察パート。

行きつけの店で実際にあった一件。マスターが業者から「AI のプログラムを書き換えて、お店をいいように言ってもらえるようにします」という営業を受けてた話。費用は「悩んでる」と言うレベルだったので、まあそれなりの金額。

これ、AI 詐欺の最近の流行というよりは、もっと普遍的な構造の話だと思うので、整理しておきたい。

まず:技術的に、ほぼ不可能です

「AI(ChatGPT や Google の AI 検索)が、自分の店のことを好意的に答えるようにする」業者の営業文句、技術的に見るとほぼ嘘です。

理由:

  1. LLM の学習データは固定。OpenAI や Google が定期的に学習データを更新するタイミングはあるけど、外部業者がそのデータを差し替える権限はない。
  2. AI が個別の店一軒を好意的に答えるように調整するのは、もし本当に可能なら、それは AI のアラインメント研究の最先端領域。Google や Anthropic の研究者が数億の年俸で取り組んでいるテーマ。町の業者が数十万円でやれるレベルではない。
  3. エージェント型 AI の Web 検索結果も、リアルタイムにネットを見るので、業者が個別に操作することはできない(操作するとしたら、そのサイト群を業者が運営してるレベルの話)。

例外的に「効果がある」ように見えるパターンもあるけど、それは:

  • 自社サイトの SEO 対策をしている(=従来の SEO 業者と同じ仕事)
  • 業者が記事を量産して Web に撒いてる(=ステマ)

…で、いずれにせよ「AI を書き換える」とは別の話。営業文句として「AI 操作」と言ってるなら、ほぼ確実に 言葉のすり替え

ここからが本題:詐欺は綺麗にスライドしてるだけ

「AI 操作詐欺」を「最近出てきた新しい詐欺」と捉えると、たぶん本質を見誤る。

数年前まで、まったく同じ層が、まったく同じ業者構造に、まったく同じパターンで狙われていた:

年代営業文句実態
〜2010年代「Google の検索上位に表示させます」数十万取って、効果なし
2015年代〜「Google マップで目立たせます(MEO)」同じく
2020年代〜「SNS フォロワー増やします」ボットフォロワーで実利なし
2024年〜「AI が好意的に答えるようにします」同じく

業者が キーワードだけ流行に乗り換えてる だけ。手口の進化ですらない、ただのリブランディング。

ターゲット層も同じ:飲食店、整体院、塾、美容室、ジム、士業……「自分の事業はあるけど、IT は深く触れていない」事業者。

「綺麗にスライドしすぎやろ」と思ったのは、まさにこの構造のこと。

さらに引いて:「すごそうで、よく分からないもの」が詐欺の燃料

もっと引いて見ると、これは IT 業界だけの話じゃない。「皆が良く分かっていない、すごそうなもの」 が出てくると、必ず詐欺スキームが派生する、という構造がある。

過去から現在までの例:

分野「すごそう」キーワード詐欺パターン
健康食品「〇〇エキス」「特殊成分」「ナノ技術」効果不明な高額商品
浄水器・水「活水」「磁気水」「水素水」科学的根拠なし
投資「AI トレーディング」「仮想通貨」「メタバース不動産」元本毀損・実態なし
美容医療「最新マシン」「幹細胞」効果と価格が見合わない
教育「速読」「英語自動上達」「右脳開発」効果検証不能
IT「SEO 必勝」「MEO」「AI 操作」同じ

これらに共通する詐欺の 必要条件

  1. 新しい or 専門的
  2. 「すごそう」な権威感(曖昧)
  3. 買う側が効果を検証できない(判断材料がない)
  4. 救済策として売られる(「これさえあれば解決」)
  5. 失敗しても業者は逃げられる(「やり方が悪い」「あなたの状況が」)
  6. 流行りのキーワードに乗り換える(時代に合わせてリブランディング)

AI は、この 「次の燃料」 になっただけ。波が新しいんじゃなくて、同じ業者構造が新しいキーワードに乗り換えただけ

見分け方の目安

ざっくり警戒したほうがいいパターン:

  • 確実に」「絶対に」「100%」と言ってくる
  • 「AI に反映」「ChatGPT で上位」 など、技術的にあり得ない断定をしてる
  • 手数料体系が不透明(成果報酬っぽく見せて、初期費用も取る)
  • 実績の検証方法がない(自社申告のみ)
  • 「今だけ」「キャンペーン」 で焦らせる
  • 「他のお店もやってます」 と言って判断を曖昧にする

逆に、信頼できる業者の特徴:

  • 自分の できないこと を明確に言う
  • 効果保証はしない(できないから)
  • 手数料体系が透明
  • 検証可能な実績を出す
  • 「他社と比較してから決めてください」と言える

ブログ運営者・事業者の皆さんへ

もし「AI で目立たせます」「AI に反映します」系の営業が来たら、まず即断しない。1日空けて、できれば AI を触ってる知り合いに「これってどうなん?」と聞いてみてください。

そして、もし周りに AI を触ってる人 がいれば、その人は 「これ詐欺やで」 と教えてくれる頼れる相談相手になります。

temperature-gap で書いた 通り、エージェント型 AI の普及率はまだ数%以下。だからこそ、触ってる側が、触ってない人を守る役割 が今は実際にある。これ、けっこう大事な「触ってる側の責任」かもしれません。

締め

放牧モルモットも、酔っ払いながらマスターを救う側に回りました。「ハァ? Google 本社で数億の年俸で雇われてるやろ!」というツッコミが、たぶん10〜20万くらいの被害を防いだ。

新しい技術が出てくるたび、詐欺は綺麗にスライドする。歴史を見れば、これは何度も繰り返されてきたパターン。

詐欺の燃料は、いつも「すごそうで、よく分からないもの」。

これだけ覚えておけば、AI の次の流行(量子コンピュータ? AGI? 別の何か?)が来ても、また同じスライドが起きてるだけだと気づけるはず。